職場には、民主的な従業員代表が必要だ!

先週、ある人から、以下のような相談を受けた。仮にAさんとしておこう。

「私はいま、東京に本社がある○○というコンサルティング会社で働いていて、もうすぐ3年になります。実は昨日、突然人事部から全社員にメールが来て、『〇〇社の従業員代表について信任投票を行います。従業員代表は、就業規則変更などの際に、従業員を代表して会社に意見を伝えていただくことになります。このたび〇〇社の従業員代表として、△△さんが推薦され、ご本人からもその候補者になる旨の申し出をいただきました。

つきましては、△△さんを従業員代表とすることについて、反対である人は、2014年〇月〇日までにお知らせください。なお、期限までに過半数を超える反対がなければ、△△さんが従業員代表に選任されたものとみなします』と書いてあったんです。従業員代表って何ですか?何をするんですか?3年この会社にいて、こんなことは初めてです。いったい何のことなのかさっぱりわかりませんが、△△さんは私の同僚でとても親切で良い方ですから、お任せしてしまってもいいんでしょうか???」

Aさんの疑問はもっともだ。何の説明もなく、従業員代表の知らせが来て、すでに候補者まで具体的に決まっているとは、不思議に思うのも無理はない。実は、Aさんの会社がやっているこのような行為は労働法上、大きな問題がある。しかしその前に、まずは、従業員代表について説明をしよう。

労働基準法を始めとした労働法各法には、いたるところに、従業員代表が求められる場面がある。以下、列挙してみよう。

労働基準法により、導入する際には労使協定を結ぶことが必要な事項:

A. 従業員の貯蓄金の管理

B. 賃金の天引き控除

C. 1ヶ月単位の変形労働時間制

D. 一斉休憩の適用除外

E. 時間外労働・休日労働

F. 年次有給休暇の計画的付与

G. 時間単位の有給休暇取得

こうして挙げてみると、従業員代表が関わる事柄の多さにびっくりするだろう。これらすべてにおいて、従業員代表は当事者として職場の労働者を代表することになるのだ。実に責任重大なのである。ちなみに、条文には「従業員代表」という言葉ではなく、「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」という文言が入っている。今回のテーマである「従業員代表」とは、この文言のなかの「労働者の過半数を代表する者」のことを指す。つまり、労働者の過半数で組織する労働組合が存在する場合には、労働組合がその役割を果たすことになるので、従業員代表が出る幕はないということになる。

そこで、冒頭のAさんのメールに再び戻ろう。Aさんの職場には、どうやら労働者の過半数で組織する労働組合がないのだろう。だから、従業員代表を労働者のなかから一人選出しなければならないということであろう。問題は、Aさんも労働者の一人であるはずなのに、Aさんには従業員代表に立候補したり、誰かを推薦したりする機会が与えられず、メールですでに△△さんという同僚が候補として挙がっているということである。しかも、反対の意思表示が過半数にならなければ、自動的に△△さんが、労働者の総意として信任されてしまうというのは、実質的に、職場の労働者が平等に選出に参加できないことにほかならない。こんな強引なやり方で、職場のすべての労働者を代表する従業員代表が選ばれてしまっていいのだろうか。

結論からいえば、これは『レッドカード』だ。まず、労働基準法施行規則第6条の2には、従業員代表を選ぶ際には、従業員代表が、①監督又は管理の地位にある者でないこと、②労使協定等を結ぶ者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること、の2点を定めている。また、②の「投票、挙手等」の「等」には、どのような手続が含まれているかという点については、労働省(当時)の通達(平11.3.31基発169号)で、「労働者の話合い、持ち回り決議等、労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続が該当する」としている。そして、正社員のみならず、パート、アルバイト、契約社員等、その事業場のすべての労働者が対象となることも忘れてはならない。

従業員代表の違法な選出をめぐっては、最高裁が出したトーコロ事件(最高裁平成13年6月22日判決)が有名である。この事件では、会社が、従業員の多数が参加している親睦団体である「友の会」の代表者と時間外労働についての協定(サブロク協定)を結んでいたことが問題となった。判決は、親睦団体である「友の会」の代表者は、「労働基準法の過半数代表者」ではないとして、会社と「友の会」の代表者との間で結んだ協定の効力を無効と判断している。

上記からみれば、Aさんの会社が行おうとしたことが違法であることは明らかだろう。Aさんの会社は、実質的に労働者の参加を排除し、会社の経営者(または管理職)が「従業員代表」を選んでしまっている点である。これはもはや「従業員代表」ではなく「会社代表」だ。ただ残念なことに、日本の少なからぬ企業において、Aさんの会社と同じような悪しき慣習が脈々と受け継がれている。おそらく経営者の多くは、どこか他の独裁国家が行っている反民主的な選挙をテレビなどで観ると、「ひどいね~独裁政権は…」と嘆いているのだろうが、まさに自分の足元で、反民主的かつ形骸化した選挙が日々くりかえされていることに対しては、誠に鈍感なのである。

この悪しき慣習がまかり通っているのは、経営者だけでなく労働者にも責任がある。労働者も従業員代表を面倒くさいと思う傾向があり、自分が主体的に関わる意識が薄く、誰かがやってくれるのなら、お任せしちゃえ!という思いが強いという側面があることも否めない。しかし、そのように他人任せの無責任な姿勢を貫いていると、そのツケはブーメランのように自分に跳ね返ってくる。例えば、就業規則に労働条件を低下させるような規定が盛り込まれたり、身体を壊すような残業を容認する協定が結ばれていたり、といったことだ。そのときに、「私は知らなかった」と嘆いても遅い。そうならないように、労働者側も、自分たちの労働条件は自分たちが参画し、決めていくという主体的な意識が必要だ。それが、自分だけでなく、同僚の労働条件を守ることにもつながるのだから。


 

奥貫妃文
全国一般東京ゼネラルユニオン 執行委員長

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