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ちゃんととろう、有給休暇

年次有給休暇(以下、有休)。それは労働者にとって、「完全なる労働からの解放日」である。心身共に健康に、長く安定して働くためにも、きちんと休暇をとる権利を休むことはとても大切なことだ。しかしながら、有給休暇をとるために不必要に高いハードルを設定したり、チクチクと嫌みをいって、休暇をとることをためらわせたりする職場も、残念ながら存在する。

とくに、学校の先生やスクールの講師など、「お客様=生徒」である場合にそうした傾向が多いようだ。つまり、「お前は生徒のことよりも、自分の休みを優先させるのか?!」といった、自己犠牲を強いるような空気である。先生が充分に休暇をとれないで自己犠牲的に働いたとしても、決して良い授業などできないのに…。

ということで、今回は、「労働者がきちんと夏のバケーションを楽しむことができる」ために、有給休暇の制度について、改めて振り返っておこう。ここからは、よく相談を受ける質問に答える形で進めていく。Q1 私の会社では、有休をとるには2ヶ月前の通知が必要だとされていますが・・・

A  有休をとるのに2か月前の予告??? 2か月前の予告などと言ったら、有休の趣旨を滅却させることになってしまいますね。

まず、最も基本的なことから言います。有休は、労働者が取得したい日を自由に決めることができます。これを「時季指定権」と言います。これは労働者の権利であり、会社が口を出すべきことではありませんので、会社は原則、労働者が取りたいといった日に付与しなければなりません。ただし、労働者が取りたいといった日がどうしても会社の「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たる場合に限り、使用者は別の日にしてくれと労働者に対して変更を求めることができます(労基法39条5項)。これを「時季変更権」と言います。時季変更権についての詳細は後述します。

なお、有休をいつまでに予告しなければならないのかについて、労働基準法には何も定められていません。予告に関する有名な最高裁の判決である「電電公社此花電話局(でんでんこうしゃこのはなでんわきょく)事件(昭和57.3.18)では、原告は、当日の午前8時40分頃に電話で宿直職員を通じて、理由を述べずに同日の年休を請求し、午前9時から予定されていた勤務に就かなかったというケースですが、この会社の就業規則には、年休の請求は「原則として前々日の勤務終了時まで」と規定されていました。そこで、会社は、原告に対して、当日を欠勤扱いとして賃金不支給としました。最高裁は、勤務予定直前の申し出では代行者の配置がきわめて困難な職場であると認定し、予告を「前々日」までとする就業規則の定めは合理性があり有効だと判決をくだしました。

ただし、この最高裁判決によって、「前々日までの予告」が常に合理的だと認められることにはなりません。これはあくまでも、この職場での事情に即して判断されたものであるので、他の職場だと、1日前の予告であっても「合理性なし」と判断される可能性もありますし、逆に1週間の予告であっても「合理性あり」と判断される可能性もあります。しかし、そうはいっても、「2か月前の予告」というのは予告というにはあまりにもハードルが高すぎる基準であり、実質的に有休をとろうという労働者の意思を挫くことにもつながりますので、合理性が認められることはほとんど考えられないと思います。そもそも、2か月前の予告を労働者にさせないと有休が取得できないという状況を改善することなく放置していること自体、使用者としての責務を果たしていないと言えるでしょう。

Q2  法律では、付与される有休は何日になっているのでしょうか?

次の表の通りです。表①は、週の所定労働日数が5日以上または週の所定外労働時間が30時間以上の労働者で、表②は、週の所定労働時間が30時間未満の労働者です。

表①

勤続年数 0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5 以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

表②

所定労働日数 勤続年数(年)
1年間 0.5 1.5 2.5 3・5 4.5 5.5 6.5 以上
4日 169~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日  73~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日  48~ 72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

 

Q3 法律では産前産後休業や子どもが病気になったときの休暇は保障されているのでしょうか?

A 労働基準法65条では、女性労働者に対して産前産後休業を認めています。産前は6週間、産後は8週間です。これは残念ながらパパ(男性労働者)には認められません。なお、子どもの看護休暇は育児介護休業法16条に定められています。これは、小学校就学前の子を養育する労働者は、1年度において5日を限度として、子の看護休暇を取得することができます。ただしこれは有給ではありません(公務員の場合は有給です)。


Q4  私の会社では付与されている有休のうち、いくつかは予め「休日」に設定されています。休日も有休としてカウントされるのでしょうか?

A 有休は、労働義務のある日についてのみ請求できるものなので、労働義務のない「休日」に有給を取得することはできません。有休の制度の趣旨は、【労働の義務を免除して、仕事から解放された状態で心身のリフレッシュをするための休日】というものです。とすると、もともと労働義務のない休日有給休暇を使うのは、本来の使い方ではないということになります。ですので、たとえば、職場が土日祝日を「休日」と定めている場合や、契約書で「休日」と定められている日を有休として扱うことはできません。

Q5 私の会社では、しばしば有休を取ろうとするとダメだと言って拒絶されてしまいます。

A うーん、まだそんなことをする会社があるのですか(*_*;)。仕方ないですねぇ。それでは、もう一度、ここで確認しておきましょう! 労働基準法39条1項は、「6か月間継続して勤務して、出勤率が8割以上だったときに、連続又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」と規定しています。そして、この要件を満たした労働者が有休を取得するには、「~日から~日までの間、有休を取得します」と会社に伝える必要があります。これが前述した「時季指定権」です。

会社は、有休を取得する場合には、労働者が会社に「許可をいただく」のは当然だ、と思いがちです。実際、多くの会社では、労働者に申請書などを提出させて、会社がそれを承認や許可したときにはじめて、有休が取得できる制度となっている場合が多いようです。しかし、実は、労働者は会社の「承認」や「許可」などは不要です。有休はあくまでも「労働者の権利」。それがまさに有休の性質です。

つまり、労働者が有休を取得する場合には、使用者に「請求」しなければならないわけでなく、単に、いつからいつまで取得するかを「指定」するだけで足ります。なぜなら、労働者は、もうすでに有休が取れる権利を持っているわけですから、あとは「いつ」この権利を行使するかということだけだからです。

ただ、このときの唯一の例外事項として、「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たる場合に限り、使用者は労働者に対して別の日にしてくれと変更を求めることができるという「時季変更権」がありますが、これを行使しないかぎり、有休が成立します。

したがって、結論として、有休の権利を取得した労働者が、その時期を指定した場合に、

  • 会社が有休の取得を拒否すること
  • 会社が有休を与えないこと
  • 会社が有休の取得を承認しないこと

などの行為はいずれも違法です。

なお、先ほどからちょくちょく出てくる使用者の「時季変更権」。これが有休取得に当たって一番問題となることです。労働者の請求に対して、その日に休まれると「事業の正常な運営を妨げる場合」は、それぞれの職場の規模、事業内容、労働者が担当する仕事の内容、性質、繁閑、代替勤務者の配置の難易、同じ時季に請求した者の人数などによって異なってくるので、なおさら判断が難しくなります。

ちなみに、かなり昔の判例ですが、「東亜紡織事件:大阪地裁昭33.4.10」では、単に繁忙期であるという理由だけでは、使用者の時季変更権を認めることはできないと判断しています。
また、「弘前電報電話局事件:最判昭和62年7月10日」は、勤務割変更の考慮をせずに時季変更権の行使をした使用者の措置を違法としたうえで、労働者が指定した時季に休暇が取れるように配慮をする義務が使用者にあるとの判決をくだしています。

さいごに、今の時代においてもなお有休の取得を認めようとしない使用者には、昭和33年の「東亜紡織事件」の判決文のなかにあるこの一文を、もう一度、頭のなかにたたきこんでもらいたいですね。

「若し、使用者の時季変更権行使の裁量を広く認めることになるのであれば、事実上、労働者はその求める時季に有給休暇を請求し得ない結果となる虞が生じ、また、使用者が与える恩恵的制度とは異なり、国家が労働条件に介入しその最低基準を法定しようとするこの制度の本質的趣旨に副わないからである」


奥貫妃文
相模女子大学法学の専任講師
全国一般東京ゼネラルユニオン執行委員長